2000

森の中で・ミレニアム

「ツツジ」:撮影、2000年1月5日

 Y2K問題がいろいろ取り沙汰される最中、新しい世紀を迎えた。さいわい、社会生活に大きな影響がないまま、

ミレニアムの時間が刻まれはじめている。ただ、たった1ヶ月前の騒動が、遠い昔のことのように思えるのは不思議である。

 さて、1987年にスタートした「森の中で」は13年を過ぎた。下北半島脇野沢村に移住して、森の中で、

はじめて野生動物と向かい合った。当時は、ファインダーの中にかれらを捉え、ピントを合わせてシャッターを

押すことだけが精一杯で、まわりの雰囲気を感じ取る余裕はまったくなかった。森の中にいたのだが、私の気持ち

は森の外にあった。

 ある時、歩き回って疲れ果てて座り込んでいたら、背後に気配を感じた。振り向くと、1頭のニホンカモシカ

が5メートルの距離に立ち、私を眺めていた。様子からずいぶん前から居たようで、全然気がつかなかった。カメラは

ザックの中で、近すぎて動きがとれず私はじっとしていた。すると、カモシカは前足を折り曲げ、ゆっくり、その場に

座り込んだ。さらに、唖然とする私を無視するように目の前で半すうをはじめた。その時はじめて、私がかれらの世界に

入り込んでいることに気がついた。森のにおいがし、風の音が耳に届き、木々の暖かを肌で感じた。また、別の時間の

流れを意識し、不思議な感覚を経験した。その時から私の「森の中で」が出発した気がする。13年経ったいまでも

その時の様子は鮮明によみがえり、ミレニアム時間とは反対に、まるできのうのことのように想い浮かぶ。ちなみに

そのカモシカは「タマサブロー」という名前で、いまはもうこの世にいない。

 少し感傷めいてきたので閑話休題。

「タマザブロー」:撮影、1989年2月23日

 年が明けて早々「ツツジ」に出会った。推定1970年生まれの30才になる老メスの彼女は、野生のサルとしての

寿命をはるかに越え、下北半島の「世界最北限にすむサル」の生きた歴史でもある。今年で13年の付き合いになり、

3年前あたりから、彼女は新世紀を迎えることはないだろうと確信していた。彼女の生命力は、私たちの寿命が

延びたように、サル社会でも…、なんて勘繰りをいれたくなるほどである。「タマサブロー」から未知なるカモシカ像を

学び、「ツツジ」とその仲間たちは、書物にあるいろいろなサルの姿をひっくり返してくれた。そして、森が、かれら彩どってきた。

 今年、3月2〜5日まで、青森市で「森の中で」の作品展を開催することになった。世の中はすでに年があけて

新しい時間で動いているが、私の「森の中で」のミレニアムは、13年間を凝縮させる2000年の3月が節目になりそうだ。

 あらゆるものが新しく変革する新しい時代のなか、不変の時間をもつ森が、いつまで残り続けられるのか…、ひいては、

「森の中で」をいつまで撮り続けることができるのか、まるで先はわからない。

 ただ、動物がすむ森がある限り、新しい年の「森の中で」を見極めたいと考えている。

                                  

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いそやまたかゆき

 
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