「サルのすむ村」6 脇野沢の三十五年

 

「森の中で」

 

 餌(え)付けから35年過ぎた。これまでの畑作物の被害で、「サルはもうたくさん、全部、

どこかに持っていってくれ」という声が近年聞かれる。

 しかし、と思う。村に来て11年、森に生きるサルたちに「隣人」のように接してきた村人の

何げないそぶりを日常の風景として見てきた。

 せっかくつくった農作物を食べられた。テレビのアンテナも折られた。困ったことも多いが、

冬、窓辺に姿をみせると思わずリンゴに手が伸びる。海に落ちたサルを船を出して助けたこと、

子どものサルが絡んで脱出できなくなった畑の網をハサミで切って助けたこと…。村人たちは

いつしか、いたずらをする子や孫のことを話すのような口調になっていた。

 被害を受ける村人、捕獲され追われるサル、両方が被害者になりながら、いまなお「共生」

にこだわり続ける。邪魔者はすべて排除するという安易な方向に向かわず、電気柵という人口物を

使ってはいるが、ひたすら山に追い戻し続ける村人。いまもなお、サルたちへの心の優しさを失わない。

 今年の通常国会に、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」の改正案が提出された。



野生動物の保護管理を国から地方自治体に移し、農林業被害をもたらす有害鳥獣の捕獲判断も

都道府県に任されることになる。地方分権の一端だが、経済的基盤など、地方の体力不足は

否定できない。自然や野生動物を科学的に管理できる専門家も少なく、被害防止へ捕獲、

捕殺が先行することが懸念される。

 サルたちとの共生に向けて、様々な取り組みを続けてきた脇野沢村。大きな曲がり角に

差しかかったいま、サルたちの数を人為的に管理するのではなく、人里までおりてこなくても

すむ生息地の保全、森の再生による被害防止に目をむけるべきではないだろうか。そこにこそ、

これまでの取り組みを生かし、新しい時代の共生の在り方を探る道が切り開かれるようにみえる。

 動物たちは、森の中で、息をひそめて見つめているのではないだろうか。 

 おわり

いそやまたかゆき

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