「サルのすむ村」5 脇野沢の三十五年


 

 「電気柵」

1994年、畑に電気柵が設置された。クマでも倒せない太い柱に支えられた金網、電気線が

編み込まれた細い線を幾重にも張った柵、さらには電線を細かい網状に折り込んだネット式のもの…。

メーカーの技術が集結され、点在する畑に競うように設置された。

 村の風景は一変した。サルは学習能力が高く、侵入できる電気柵を探し出す。自然の中に、

人工的な何種類もの電気柵が並んだが、効果をみる意味でやむを得ないことだった。

 設置直後、手始めに自分で感電してみた。電圧は、7千ボルト。サルたちが死ぬことはないが、

かなりの衝撃で、二度と触りたくないと思った。



サルたちは、柵の周りを遠巻きにう回するように移動するだけで、警戒している様子が伺えた。

ある時、1匹の若いサルが柵の前に座り込んで、じっと中を見つめていた。間もなく、電線の間か

ら手を入れ始め、ジャガイモに届く寸前に触れてしまった。その瞬間、この世のものとは思えない

絶叫を上げ、あっという間にスギ林に駆け込んだ。興味深かったのは周りのサルたちの行動で、

いずれもパニック状態、後を追うように一斉に姿を消した。サルたちは、群れの仲間をまねること

で安全の確認や食べ物の場所を覚える。この習性を利用し餌付けができるのだが、逆に、仲間が逃

げる姿を見せることで危ない場所だと学ばせ、畑からの「追い上げ」も可能になってくる。しかし、

前提として、サルたちが生活できる山が不可欠だ。本来の生活の場、山の恵み、木の実をもたらすブナ、

ミズナラなどの落葉広葉樹の森をよみがえらせなければならない。電気柵はあくまでも暫定措置。

時間がかかり根気も必要だが、山林の見直しを図りながら、人とサルが自然をともに分かち合う、

本当の意味の共生を考えるときではないだろうか。                              

つづく

いそやまたかゆき

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