「スズラン・冬」 

     きょうは、春の嵐ならぬ地吹雪。世間では、桜、さくらの声も聞か

    れる頃なのに、とんでもない風景。強風と雪である。

    先日も、冬タイヤを交換しようと考えたほどで、春の足音は目前に迫っていた。

    山では、フキノトウはもちろん、福寿草や、少々気の早いマンサクの花も咲いていたと言うのに…。

     今年は、本当に不思議な冬である。

    年末、年始は積雪ゼロ。雪のない正月は40年ぶりらしく、生活は楽だったが、

    やっぱり、北の正月は格好がつかなかった。

    「旅人」も大半が肩すかしで、皮肉なことに、ちょうど人がいなくなってから、

    本格的な冬になった。

    私たちは、長期気象予報なるもので、多少気持ちの準備ができるが、山のサルたちは、

    さぞ、大変だと思う。とくに、今年のように目まぐるしく気温の変動がある冬は,なおさらである。

     春に生まれたアカンボウは、初めての冬は、生き死にが決まる時期でもある。

    もちろんオトナのサルにとっても例外ではないが、体が小さいアカンボウは、

    人生いや猿生最大の選抜試験に匹敵する。

     91年に生まれたメス「スズラン」は、昨春、かわいいオスのアカンボウを出産した。

    初めてのこどもである。ただ、出産のピークである5、6月が過ぎた7月中旬に出産し、

    それも、初めての子育てということで、この冬の乗り切りを懸念していた。

    夏から秋にかけて、特に注意深く観察し、気をつけていた。秋は交尾期で、ハナレザルが

    群れ近くに出没し、交尾に関わるトラブルにアカンボウが巻き込まれる事も少なくない。

    11月も順調に成長していたが、下旬から、アカンボウの姿が見えなくなった。

    「スズラン」だけは単独で観察され、結局、冬が来る前に小さな命は消えてしまい、

    彼女は、母親として冬を過ごすことが出来なかった。

     今年、大寒は雪であった。採食の手を休め、隣の親子を食い入るように見つめている姿に、

    「スズラン」の気持ちをみた気がした。

                  

いそやま・たかゆき

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TAKAYUKI.ISOYAMA 1998