「冬の訪問者」

 今年のエルニーニョは今世紀で最大の規模になると報じられている。あちこちで、

大雨による洪水や日照りという気候の変動が起きている。

 私が脇野沢村に移住して10回目の冬を迎えたが、とくに今年は、北の冬らしくない。

村の長老の話によると積雪はかつての半分以下、寒さもこんなものではなかったという。

 

 寒冷地にすむ動物たちにとって、冬の生活はひとつの節目になる。私たちは社会的慣習

として、春が区切りになる場合が多いが、自然のなかで生活するかれらは、

食料事情の悪い季節が要となる。

ニホンカモシカは、下草や広葉樹などの葉、花を主食とする草食動物である。春から秋に

かけて、さまざまな植物を食べ歩き、のんびり生活している。しかし、紅葉から落葉に

変わり、冬になると積雪も手伝い、採食出来るものが少なくなる。普段は口にしない、

ヒバ、ササなどを選ぶのもこの時期である。

 わが家の玄関先に「イチイ」という常緑針葉樹が1本ある。積雪の時期になると、

馴染みのカモシカがやってき、葉や枝先をうまそうに食べている。世間で言う食害であるが、

10年続いている。あまり旨そうに食べているので、試しに私も噛ってみたが、ひどいものだった。

ヒバにしても、おいしいという代物でなく、冬場の生活は大変そうである。

ところが、春になると好物の新芽が芽吹き、イチイなんて見向きもされず、

我が家の「食害」はとりあえずゼロになる。つまり、食料事情にあわせ採食レベルが変わるわけで、

うまいものがなくなれば、仕方がないから「まずくても食べるか」というところであろう。

いわば、冬をどう切り抜けるかが、次の一年につながる。

 玄関のガラス越しに見る「イチイ喰い」は、わが家の冬の風物誌にもなっている。

今年は、気のせいか、姿を見せる回数が少ない。エルニーニョの影響が、

こんなところにまで表れているのだろうか。

 わが家の風物誌がいつまで続くのか、ひょっとすると、自然界のバランスの物差しになるかも…。

 

いそやま・たかゆき

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TAKAYUKI.ISOYAMA 1998