「ハチノジとヨノジ」

 

 脇野沢村は、秋と言うより冬の気配が色濃くなってきた。肌身に冷たさを感じる強い風

が吹き、青森市からの定期船も欠航する日が多くなる。

 我がユースホステルの前に「愛宕山公園」という小さな山があり、船で来村する旅人は、

まずこの公園が出迎えてくれる。私たちがこの村に移住して、今年で10年が経過するが、

その時から、この「愛宕山公園」で時々姿を見かけるニホンカモシカがいた。

くわしく調べてみると、1週間に2日ほどこの公園を利用しており、そのほか、道路を横

断して、ユースホステルの玄関、芝生も移動しながら、裏手にある中学校の周囲の山林を

生活の場にしていることが分かった。又、時に、我が家の唯一のペットである「チャボ」と

お見合いをしているほほえましい光景にも出会った。

そこで、名前を付けて長期的に観察しようと言うことになり、カミさんといろいろ考えた。

推定年齢10才以上のオスで、角は両方とも先端が折れて短く、鼻筋の黒い毛の文様が

漢数字の「八の字」に見えるところから「ハチノジ」(写真左)と決定。以来、7年間の

単独生活の記録が残っている。

しかし、94年の夏も終わりのある日、若いメスのカモシカと一緒にいるのを目撃。

カモシカも秋が交尾期にあたり、あちこちで2頭連れの姿を見かけるが、

これまで「ハチノジ」がメスと一緒の観察はなく、翌春の二世誕生に期待したが、結局、

いつしか同じ単独生活の観察に戻り、いつのも春が過ぎた。

 ところが、翌年の秋、ふたたび、同じメスと一緒の姿を何度も見かけ、翌春、

メスがアカンボウを連れて「愛宕山公園」を歩いている姿に出くわした。

その横には「ハチノジ」が悠然と2頭を眺めており、まさに、我が家族という顔をしていた。

メスは、94年からの観察から「ヨノジ」(四の字)、アカンボウには、96年生まれと、

八プラス四割る二で「ロクノジ」(六の字)と名付けたが、残念ながら「ロクノジ」は

冬に短い生涯を閉じた。

 今年の秋、また「ハチノジ」「ヨノジ」の姿が観察され、再び、来年に

「ハチノジ二世」の期待がもてる。

 自然の摂理は、面白さ、はかなさと悲喜交々で、私たちにはどうにもならないところが

あるが、私たち人間の力が及ばないところが、神秘的で、魅力なのである。

 

いそやま・たかゆき

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TAKAYUKI.ISOYAMA 1997